口舌の刃で人を斬るとはなんともやりきれん
上は漫画「花の慶次 雲のかなたに– 隆慶一郎 / 原哲夫」の名セリフの一つ。
変換だと「くぜつ」ではなく「こうぜつ(口舌)」で正しく変換されるので、一般的な読み方は「こうぜつ」で良いのだと思われる。
傾奇者(かぶきもの)だった前田慶次のセリフにしてはややまともすぎるというか、インテリカッコイイ言葉を選んで使ってるような印象が違和感と共に記憶として残った。キャラとしては口より先に手が出るイメージが強いせいなのかな。個人的には「やりきれん!」とだけ一言叫んで、あとは拳を固めて気に入らない奴を片っ端から黙ってぶん殴る方がいかにも傾奇者(あぶないひと)っぽいと思った。原作として文学がベースにあるからこのキャラにしてこのセリフなんだと思う。
「口舌」の使い方としては夏目漱石の「吾輩は猫である」のほうが読むとなんかしっくりくる。
抜粋ここから
鈴木君は利口者である。いらざる抵抗は避けらるるだけ避けるのが当世で、無要の口論は封建時代の遺物と心得ている。人生の目的は口舌ではない実行にある。自己の思い通りに着々事件が進捗すれば、それで人生の目的は達せられたのである。苦労と心配と争論とがなくて事件が進捗すれば人生の目的は極楽流に達せられるのである。
抜粋ここまで
よくある使われ方として口舌は「口先だけで(実を伴わない言葉/empty word /lip service)」くらいの意味で、上記漫画での使われ方だと口先だけで人を傷つける、転じて「罵る、貶す」ってことか。
その他の使用例(青空文庫):内田魯庵 鴎外博士の追憶
抜粋ここから
蒙求(もうぎゅう)風に類似の逸話を対聯(ついれん)したので、或る日の逸話に鴎外と私と二人を列(なら)べて、堅忍不抜精力人に絶すと同じ文句で並称した後に、但だ異なるは前者の口舌の較(や)や謇渋(けんじゅう)なるに反して後者は座談に長じ云々と、看方(みかた)に由れば多少鴎外を貶(けな)して私を揚げるような筆法を弄(ろう)した。
抜粋ここまで
英語だとどうなんだろう
海外だとシェイクスピアの詩 (Romeo, in Romeo and Juliet, act 1, sc. 1, l. 212-4.) で
She will not stay the siege of loving terms,
これが「言い寄る口舌の囲みにも潰えず」とか訳せるらしい。カッコイイ訳。